去年、FIBA殿堂入りを果たした日本女子バスケットボール界のレジェンド、大神雄子だが、現役の時にオリンピックに出たのはわずか1回、2004年のアテネ五輪だった。21歳、当時のチームの最年少選手としてベンチ入りしている。1分しか出られなかった試合もあったが、オーストラリア相手には28分に出場し、21点をあげた。
「とにかく試合に出たら短時間でもエネルギッシュに流れを変えることに徹していました。オーストラリア戦はそれができたことで、プレータイムも勝ち取れた」と語る。
当時、日本はまだ世界の強豪を相手に互角に戦うことができず、オーストラリア戦も最終的に19点差で敗れた。それでも、大舞台で強豪相手に21点を取る活躍ができたことについて大神は「忘れられないことで、その後のモチベーションになった出来事でした」と、当時を振り返った。
ロシアとの試合でマリア・ステファノーバの上からフローターを決めてエンドワンを取ったことや、中国戦でミャオ・リージェを相手にダブルクラッチシュートを決めたことも懐かしい思い出だ。
「若いときは少しでも多くプレータイムがほしいと思っていたんですけど、長くやるにつれて、自分のモーメントを作り、人にインパクトを与えるプレーをすることで流れを変えたり、勝利を引き寄せたりすることが大事だと思うようになりました。それは確かに自分の記憶に残っているし、人の印象にも残るものなのかなって。今、コーチになって、選手たちにもそう話しています」
それから17年たって、2021年の東京オリンピックでは、大神は3x3女子日本代表アソシエイトヘッドコーチとして、2度目のオリンピックを経験した。
コロナ禍のため無観客で、さらに新種目ということで、前回とはまったく違う雰囲気の中でのオリンピックだった。3x3を浸透させるためにも結果を残したいと思っていたが、残念ながら目標としていたメダルには手が届かなかった。
しかし、そのときのメンバーのうち、山本麻衣と馬瓜ステファニーの2人はその経験で成長し、パリ五輪では5人制日本代表入りし、揃ってスターターを務めている。3x3という、試合内容でも試合環境の面でもタフな中で戦ってきたことによる精神的成長や、3x3で重要な外からのシュート力を磨いてきたことが、それだけの成長につながったと大神は2人を称賛する。
「2人が5人制の代表に入って頑張っていることで、3x3の認知度をしっかりと上げてくれている。東京からパリと、繋がるものってあるなっていうのを、彼女たちに教えてもらった感じがしています」
大神は現在、Wリーグのトヨタ・アンテロープスでヘッドコーチをしている。そして山本はそのアンテロープスの選手でもある。馬瓜は昨季からスペインでプレーしているが、その前は、やはりアンテロープの選手だった。
2人はどんな選手で、大神はどんなところに期待しているのだろうか。
「山本に関しては、迷わずスリーポイントを打つこと。ロゴスリーと呼ばれるディープスリーも打ち切れる選手。スリーポイントは日本の生命線でもあるし、チームを引っ張っていってほしい。
ステファニーは、スリーポイントも打てて、インサイドもできるし、ボールも運べて、ディフェンスもできる、本当に何でもできるオールラウンド的な選手。唯一無二の存在だと私は思っています。昨季スペインに行って、身体がぶつかってもねじ込めるようになった。そのフィニッシュ力が、スペインに行ってさらに進化したところだと思いました」
パリ五輪は日本のテレビ局のスタジオで解説をする予定だ。そんな大神には近い将来、代表ヘッドコーチとして国際大会の場に戻りたいという目標がある。
去年8月、FIBAの殿堂入りスピーチで、各国協会の役員たちを前に大神はこう宣言している。
「次の私の目標は国の代表ヘッドコーチになること。また国際大会の場に戻ってくるので、どうぞ、この顔を覚えていてください」
このとき、大神はあえて「日本代表のヘッドコーチ」とは言わず、「国の代表コーチ」と言った。その言葉通り、どこの国からのオファーでも歓迎だという。
「まだどこからもオファーは来ていないんですけれどね。でも、そのときのために英語も勉強しています」と笑顔を見せた。
(文・宮地陽子)
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