東京(日本)- 東京オリンピックで、日本バスケットボール史上初の銀メダルを取ってから3年。女子日本代表は、もうひとつ上のレベル、つまり金メダルを目指してパリ五輪に挑む。東京五輪でチームを銀メダルに導いたトム・ホーバスは、大会後に男子日本代表のヘッドコーチに就任し、女子代表は東京五輪でアシスタントコーチだった恩塚亨が率いている。
一見すると、恩塚はホーバスのバスケットボールをそのまま踏襲しているように見えるかもしれない。小柄な選手たちが走り回り、動き回り、速攻で得点し、3ポイントシュートを打つ。その点では確かに今回の日本代表は、東京五輪のときのチームと大きく変わりはない。選手も12人中9人が東京五輪のメンバーだ。しかし、実は根本的なところで変化が起きている。そして、これは金メダルを取るための変革だ。
恩塚は言う。
「きっと、(東京五輪決勝の)アメリカ戦を見たら、他の国もみんな真似してくるだろうなって思いました。ポイントカードをディナイして、シューターをディナイして、スクリーンを全部スイッチして」
その対策として恩塚は、日本の弱点を埋めるよりも、強みを最大限に出す戦い方を選択した。チームのコンセプトは「走り勝つシューター軍団」。最終ロスターを決める際にも、それが基準になった。
東京五輪で、ホーバスは100通り以上のフォーメーションを用意していたと言われている。選手たちも大会後に「覚えるのが大変だった」とこぼしていたほどだ。
一方、恩塚は、彼が「スクリプト(台本)」と呼ぶ、勝利に向けての道筋、考え方を用いている。そのスクリプト自体は、恩塚も「いくつあるかはわからない」と言うぐらいたくさんあるのだが、選手たちには「とりあえず丸暗記するように」と指示をした。そのうえで、「迷うぐらいなら台本通りにやってほしいけれど、それよりいい手があればアドリブでやってほしい」とも指示しているのだという。
「そうすることで、停滞することなくチームの強みを発揮でるし、個人の創造性も生かすことができる。この両方を目指しています」
ホーバスのフォーメーションと、恩塚のスクリプトは何が違うのか。
今回の日本代表メンバーで、東京五輪のメンバーでもあった宮澤夕貴に聞いてみた。
「フォーメーションより、スクリプトを覚えるほうが大変です。フォーメーションは全員が決まった動きをします。相手がこういう動きしたら(という)裏のプレーはもちろんあるんですけど、基本的にその動きは変わらないんです。でもスクリプトだと、相手がこういう動きをしたらこうっていうのを、その場その場で瞬時に判断しなきゃいけなくて。1人でもそれを間違えるとプレーが崩れる。やっぱそこがフォーメーションとの大きな違いかなって思って思います」
東京五輪で、日本代表のポイントガードとしてアシスト王になった町田瑠唯も、ホーバスのフォーメーションより、恩塚のスクリプトのほうが難しいと言う。
「判断のところで、本当に全員がそのプレーを理解して、その選択肢をみんなが知ったときに決まるプレーが多いので、そこはやり込まないと、なかなかあっていかない」という。
もちろん、どんなにいいシステムでも、選手たちがそれを信じないことには、成功はありえない。恩塚によると、その手応えを感じるようになったのは、今年2月のオリンピック最終予選の前頃だったという。
「選手たち自身が「走り勝つシューター軍団」っていうことを自分たちのアイデンティティのように語るようになってきたんです」
新ヘッドコーチ、新システムのもとで、女子日本代表は金メダルに挑む。
FIBA