7月27日
    2024年8月10日

    富樫から河村へと受け継がれるスモールガードのプライド

    読み物

    河村勇輝は常に富樫勇樹の背中を追いかけてきた。世界的に見ると超小型の2人のポイントガードが、日本をけん引する。

    去年のFIBAワールドカップのフィンランド戦、河村勇輝が第4クォーターに15点をあげる活躍でチームを勝利に導いたとき、富樫勇樹は一ファンになった気分で、ベンチから彼のプレーを見ていたという。

    「なんか、もう本当に1人のNBA選手を見ているような感覚でした」と後から振り返った。

    身長1.67Mで、パリ五輪開幕後の7月30日に31歳になる富樫と、1.72M、23歳の河村。世界を相手にするとひと際小さい2人は、去年に続いて今大会でも揃って日本代表に名前を連ねている。トム・ホーバスヘッドコーチにとって、小柄なポイントガードを2人ロスターに入れることは賭けだったが、それでも日本の強みを最大限に出す戦いをするには、スピードとチームをコントロールする能力に長けた2人のどちらも外すわけにはいかなかった。

    富樫は去年の夏のFIBAワールドカップのときに、こう言っていた。

    「この身長で、こんな長く代表活動させてもらえるなんて正直思っていなかった。僕は子供のときにオリンピック出ている日本代表のチームをほとんど見ていなくて、代表を目指すということを考えずにプロ選手としてプレーしていた時期もあった。そこからこうやって代表に選んでもらって、この大きな大会でキャプテンを任され、チームの目標だったパリオリンピック出場を決めることができた。それはすごく嬉しく思います」

    子供の頃からそんな富樫の背中を見て、憧れ、追いかけてきたのが河村だった。高校の頃から「富樫さんのように、体は小さくても日本を背負って世界と戦っていけるようになりたい」と言っていた。

    河村自身も「このサイズでバスケットすることはすごく大変」と認めるが、それでも、サイズ不足は世界と戦えない理由にはならないと、プライドをのぞかせた。

    「身長の差、ジャンプ力の差は気持ちで埋められると僕は思っています。(自分を見て)小さい子供たちが諦めないようになれば」と、その思いのたけを語った。

    そんな河村にとって、パリ五輪はこの数年間、何よりも優先にしてきたことだった。富樫は「代表を目指すことを考えなかった時期があった」と言っていたが、彼より7歳若い河村は、以前から日本代表のユニフォームを着て世界と戦いたいと夢見てきた。代表を強くすることで、日本のバスケットボール人気を盛り上げたいと思っていた。

    そのため、2年前に大学を中退してプロ選手になった後も、もう一つの目標だった海外挑戦を後回しにして、パリ五輪に出るために、日本国内にとどまり、Bリーグでプレーしながら成長してきた。その選択について、「スポーツ選手にとってオリンピックっていう舞台は誰しもが立ちたい舞台だと僕は思っています。そのために、いろんな決断をしてきたつもり」と言う。

    だからこそ、去年、日本代表のメンバーとしてパリ五輪出場権を勝ち取ったことは嬉しかった。と同時に、世界を相手に戦ってみて、自分の課題もたくさん見えてきた。この1年は、その課題をひとつずつ乗り越えるように努力し、パリで戦う準備をしてきた。

    オリンピックでの戦いはワールドカップ以上に厳しい。ワールドカップで「別格だった」と表現したドイツ代表のデニス・シュルーダーと再戦するほか、フランスやブラジルと戦い、チームの目標であるベスト8に挑む。

    常に前を向き、成長し続ける河村を、富樫は「ワールドカップの結果やBリーグでの活躍を見て、彼に対するまわりの期待がすごく高いので、それを超えていくのは簡単ではないと思いますけれど、彼はそれができると思います」と、誇らしげに見守る。

    目標としてきたパリ五輪が終わった後には、保留にしてきた海外挑戦が河村を待っている。まずは、9月になってからメンフィス・グリズリーズとエクジビット10契約を交わし、トレーニングキャンプに参加する予定だ。サイズは小さくても、その存在感はどんどん大きくなっていく。

    (文・宮地陽子)

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