東京オリンピックとパリオリンピックの男子日本代表の戦いは、表面だけ見ると、まるでリプレイボタンを押したようにそっくりだった。
ヨーロッパの2チーム相手に1試合(東京では対スペイン、パリでは対フランス)は善戦し、もう1試合(東京では対スロベニア、パリでは対ドイツ)は完敗。
最終戦では主力(東京ではギャビン・エドワーズ、パリでは八村塁)が離脱し、南米のチーム(東京ではアルゼンチン、パリではブラジル)に敗れた。結果は同じ3戦全敗で、決勝ラウンド進出は成し遂げられなかった。
それでも、パリオリンピックは、結果だけでは測れないところで、日本の成長が見られた大会だった。大会後の選手たちのコメントにも、その手応えは表れていた。
キャプテンの富樫勇樹は、大会を振り返って、「もちろん、これが今の実力ですし、結果が全てではありますが、前回の東京大会よりは少し違う気持ちで終われたかと思います。そしてこの経験が次の世代に必ず生きてくると信じています」と前を向いた。
また、前回、東京オリンピックでは最終戦に敗れた後、ベンチで頭からタオルを被って泣いていた渡邊雄太は、今回も目に悔し涙をうかべてはいたものの、「ベスト8という目標があった中で達成できなかった事に対して今は悔しい気持ちでいっぱいですが3試合を通して世界に日本のバスケットを見せることは出来たと思います」と胸を張った。
選手たちが手応えを感じ、見ているファンが希望を感じた最大の理由は、地元フランスを相手に第4Q残り16秒で4点リードを取り、勝利目前だったことだ。その後、フランスの3ポイントショットの際に河村勇輝がファウルを吹かれたことで同点に追いつかれ、オーバータイムで力尽きて敗れた。しかし、勝利は手からこぼれたものの、ヨーロッパの強豪相手でも互角に戦えるということを示すことはできた。
1年前に渡邊に将来の日本代表像を聞いたとき、彼は、「世界から軽視されないチームになっていかなくてはいけない」と語っていた。
「日本だけじゃなく、アジアはどうしても世界的に見るとなめられている。他のヨーロッパやアメリカの大陸のチームが、グループ決まったときにアジアのチームが入っていたら、『よし、これまず1勝』っていうふうに思われている。そういうのを変えていかなくてはいけない。日本とやるのは嫌だなっていうふうに思われるようなチームに、まずなっていかなきゃいけない。技術面や、いろんな部分を含めて、正直、まだまだ世界との差は大きいけれど、少しずつ、他のチームが僕らとやるのは嫌がるようなチームになりつつあるんじゃないかなって思っています」
その後、日本はワールドカップでフィンランドを倒し、ベネズエラとカーボベルデにも勝利して、パリオリンピック出場権を獲得した。パリでは、勝利こそつかめなかったが、フランスを追い込み、勝ったフランスに「運が味方した」と思わせるような戦いをすることができた。
ジ・アスレティックによると、フランスのビクター・ウェンバンヤマは日本との試合後に「彼らをリスペクトしなくてはいけない。彼らは自分たちの長所をどういかしたらいいのかよくわかっている。自分たちもそこから学べることがある」と言っていたという。相手からリスペクトを得られたことは、この大会での日本の最大の収穫だった。
もっとも、選手たちはリスペクトだけで満足はしていない。フランス戦で29点、6アシスト、7リバウンドをあげ、八村が退場した後のチームをけん引する活躍で注目を集めた河村勇輝は、「僕たちは勝つために来た。いい勝負をしに来たわけではない」と、勝ちきれなかったことへの悔しさをにじませた。
4年後のロサンゼルスオリンピックに向けて希望が持てるのは、そこだ。選手たちは、善戦したことで満足していない。世界のトップ12チームの中で真剣勝負をしたからこそ、彼らに勝ちたい、勝利をあげたい、そのために個々の選手たちがもっと成長したいという思いを強くして、パリでの戦いを終えた。世界への挑戦は、この先も続く。
(文・宮地陽子)